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名古屋高等裁判所 昭和36年(ラ)44号 決定

抗告人 森阪秋吾

訴訟代理人 足立梅市

相手方 岩田徳太郎 外一名

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

抗告人の抗告の趣旨及び抗告理由は別紙記載のとおりである。

記録によると、本件競売の基本である抵当権は共に債務者である相手方松田三蔵の所有に属する本件土地及び建物に対する共同担保の抵当権であつて、その債権額は計二二一八、〇九二円であること、債権者である相手方岩田徳太郎は、競売申立人としてその申立書に既に、「本件土地建物に対しては後日の紛争を避くるため一括競売に付せられたい」旨記載し、別に一括競売申立と題する書面を提出し、同書面に「本件不動産は同一敷地内に建物建設せられ、これを各別に競売する時は競売価格が低廉になるばかりでなく敷地と其の地上の建物と競落人を異にする時は後日地代其の他の事由により紛争の因になる恐れがあるから、土地建物を全部一括して競売せられたい」旨、競売裁判所に申出でて居ること、原裁判所は本件不動産について鑑定人伊藤斎吉に命じた評価鑑定の結果に基き「不動産の表示」を「伊勢市一之木町一九〇番一、宅地弐拾坪弐合九勺公課金四、四〇八円也此の最低競売価額金壱百四拾万円也同上一九〇番家屋番号同所二八一番の二、一、木造セメント瓦葺弐階建店舗公課金四、五〇〇円也建坪拾弐坪五合、弐階坪拾弐坪五合此の最低競売価額金五拾万円也右建物に附属する建物建具その他従物定着物等一切有姿のまま」と競売期日の公告に掲げ、その競売期日に本件競売記録を各人の閲覧に供し本件競売物中建物の部分のみについて抗告人の競買申出があり、本件土地については競買の申出がなかつたので、原裁判所が抗告人摘示の理由によつて本件競落を許さなかつたことが認められる。従つて本件競売物件である土地及び其の地上に在る建物は共に債務者の所有に属し且本件抵当権も亦右土地及び建物を一括して設定せられたものである場合であるから、若しこれを分離して個々に競売するときは、一括して競売する場合に比し、甚しい価額の低落を来し抵当権者並に債務者所有者等の利害関係人に大きな損害を与える結果となることが明白に予測される場合であるということが出来る。このような場合には、競売裁判所は、競売制度が裁判所の関与によつて公正になるべく高価に抵当物を売却し抵当債権を満足せしむることを目的とする制度であることから、強いて個別に競売することなく、競売申立人の申立にかかる一括競売の方法によるべきである。(東京高等昭和三三年(ラ)第七一〇号不動産競落許可決定に対する即時抗告申立事件昭和三四年二月二四日決定、下級裁判所民事裁判例集第一〇巻第二号三九六頁以下参照)本件については他に一括競売を不当若しくは不便とする事由が見当らないのであるから、競売裁判所が競落期日に出頭せる債権者の異議申出を認容し分割競売を許すべきでないとして競落不許可の決定したことは本件記録に徴し明白であるので、本件抗告は失当である。

その他記録を精査しても、原決定を違法ならしめる欠点を見出すことができないので、本件抗告は理由ないと認め、これを棄却すべく、民事訴訟法第四一四条、第三八四条、第八九条、第九五条に従い、主文の通り決定する。

(裁判長判事 県宏 判事 越川純吉 判事 奥村義雄)

抗告の趣旨及び理由

原決定を取消し競落許可決定の裁判を求めます。

一、前記昭和三十六年三月十七日津地方裁判所伊勢支部が為された競落不許可決定に明示された理由は「本件競売物件である宅地建物は同一債務者の所有に属するから分割競売をする時は利害関係人にいちじるしい不利益をもたらすものと認められる」旨をもつて抗告人の為した競落を不許可にされているが該決定は如何なる法的根拠に基いて為されたものであるか明らかでない。

二、抗告人は右競落に対しては別紙疎明書類(一)の競売及競落期日公告を逐一検討しこれが分割競売であつた為競落を為したものであり抗告人のなした競落は所定の適法な手続により為したものであり全く善意の競落人である。

三、従つて之れが同裁判所の前記理由をもつて該競落を不許可決定にされたことは甚だ抗告人の権利を不当にはくだつするものでありこれを容認することはできない。

四、叙上のごとく同裁判所の為した該決定は法律上全く根拠のないものであり失当であると思料するから抗告人は抗告の趣旨どおりの御裁判を求めるため本抗告に及んだ次第である。

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